世界中の人々といつでも繋がれるこの時代
【旅する理由 #findyouraww】BEN
「好きなときに好きな場所で好きな人と過ごす」
そんな既存の枠に囚われない新しいライフスタイルを自分で作り上げていく。
この連載はそんな輝く「わたしたち」にフォーカスし
インタビューを通して見えてくる
人となり、ライフスタイル、
そしてわたしたちが旅する理由をひも解きます。
ワクワクする非日常への一歩を踏み出せるようになりたい
「わたし」へ向けて。
私が旅する理由
writer: MAAYA SATO
第16回目は、『会いたい植物、会いたい人のピンがクロスした場所に行く』旅好きの植物採集家、古長谷莉花さんにインタビュー。母の影響で幼少期から植物に囲まれて育った莉花さん。大好きな植物を通して見る世界、旅先での出会いを通して感じた自分の使命とは?
Profile
古長谷 莉花
職業: 植物採集家
趣味: 植物に触れること、茶を飲むこと
好きな食べ物: お茶と米粉クッキー
座右の銘:世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。
Q1. 植物採集という珍しいキーワードで旅や仕事をされていますが、どんな旅でしょうか?
植物を通じて学びを深めることを目的とした旅です。
これまでに、イギリスへ短期留学し、本格的にフローリストとしてビジネスを始めるためのスクールに通ったほか、韓国・釜山では韓方(日本でいう漢方)を巡る旅をしました。直近では、台湾茶を学ぶために台湾を訪れています。
台湾の漢方薬局
Q2. 旅先はどうやって決めていますか?
会いたい植物、会いたい人のピンがいくつかクロスした場所に行きます。
Q3. 会いたい植物と人がいる場所、素敵ですね!直近の台湾旅についても教えてください!
今回の旅では、台中の原生林の中で野生の茶の木を視察し、4日間にわたり台湾茶の飲み比べを行いました。
私は日本各地のお茶農園を巡るほどお茶が大好きなのですが、自由が丘に住んでいた頃、近所の台湾茶サロン「茶の助」で張さんという方と出会いました。
張さんは、未開拓の原生林のような場所で、樹齢100年を超えるお茶の木から手作業で茶葉を摘み、お茶を作るという、非常にユニークな方です。日本ではお茶の木は通常、樹齢40年ほどで植え替えられるため、それがどれほど珍しいことかが分かると思います。
これまでにハーブティー、紅茶、野草茶・薬膳茶などさまざまなお茶を学んできましたが、台湾茶にはあまり馴染みがありませんでした。
そこで、本物の台湾茶を学ぶならぜひ張さんから直接学びたいと思い、お声がけしたところ実現しました。
Q4. 大好きなお茶について学ぶ旅、ワクワクしますね!実際に訪れてみた感想はいかがですか?
朝9時から夜中の2時までお茶を飲み続け、まさに心身を鍛える修行のような旅になりました(笑)。
現地に着いてまず驚いたのは、原生林の香りです。
日本の森とはまったく異なり、まるで華やかで複雑な精油がブレンドされたような香りが漂っていました。
お茶の香りには、その土地の空気や自然のエッセンスが染み込んでいます。実際に飲んでみると、口いっぱいに広がる香りと後味の中に原生林の植物を感じ、高揚感を覚えました。その丁寧で奥深い味わいは、他では出会えないものです。
また、現地では野生のシナモンやレモンの花にも出会い、力強さに感動しました。樹齢数百年を超える木もあり、日本で見る整然とした茶畑とはまったく異なる風景が広がっていました。
台湾原生林で野草を食べる張さん
台湾原生林の茶葉
“人生を茶に捧げた張さんと出会って、使命がより明確に”
Q5. お茶の世界も深いですね。そのお茶もいつか飲んでみたいです!台湾旅では、どんな学びがありましたか?
お茶は健康に良いイメージがありますが、一方で「飲む農薬」とも言われることがあります。農薬や化学肥料、農業機械などを使う「慣行農法」で作られた茶も愛飲していますが、誰がどのようにつくったものなのかは知っていきたいと考えています。
ハーブティーなども効果・効能を謳っているものの、内容が曖昧だったり、薬機法違反の表示がされていたり、保管・管理がずさんなことが少なくありません。どこで、どのように育てられたのか、どのように消費者に届いているのが分からないという問題もあります。
これは中国茶や台湾茶でも同様で、今回の旅では、安全で本物のお茶を見極める方法を丁寧に教えていただきました。
人生を茶に捧げた張さんと出会い、私自身も改めて、自分が生まれ育った伊豆の植物に向き合い、美しい人々の暮らしの歴史や、植物民俗学をより深く探究していきたいという思いが、今回の旅を通じて一層強まりました。
台湾の原生林で火を起こして茶を嗜む
“「帰る場所」があるからこそ、旅先の魅力も一層深く感じられる”
Q6. 旅を通して、よりご自身の使命が明確になったんですね!地元の伊豆で活動しようと思った理由を教えてください
多くの人にとって、新型コロナウイルスによるパンデミックは人生を変えたと思います。わたしたち家族にとっても同じでした。
コロナ禍に息が詰まるような東京 自由が丘での暮らしを変えたいと考え、北海道から沖縄まで各地を旅して移住先を探し。この旅で多くの植物友達に出会うことができ、移住について、人生について深く考える時間を持てました。
地元の三嶋大社で、新緑の中で結婚式を迎えた時大きく心が動きました。自分が思い描いた、植物で彩る結婚式ではあまりにも美しい世界が広がっていて、足繁く帰省するように。
植物や伊豆ならではの文化を知るおじいさん、おばあさんがたくさんいて、嬉しそうにたくさん話してくれました。しかし誰もその情報に興味がない。このまま誰にも残されずに消えていくにはあまりにも惜しいことだらけです。
もう間に合わないかもしれない、というギリギリのタイミングです。植物の情報は、インターネット上にはほとんど正確なものが載っていません。AIが引っ張り出す情報のほとんどは不正確なのです。
私にできることは何だろう——そう考えたとき、生まれ育った伊豆の美しい自然、そしてそこに生かされてきた人々の知恵を伝えていくことこそが、私の役割なのかもしれないと思うようになりました。
やってみなければわからない。この手で、この目で確かめなければわからない。それが植物の世界です。先人たちが命を注いで確かめてきた知恵と知識を未来へつなぐために、活動を広げていきたいと考えています。
自分の「帰る場所」があるからこそ、旅に出る喜びがより大きくなり、旅先の魅力も一層深く感じられる気がするんですよね。
伊豆の蓮茶研究開発
Q7. 私自身も旅が多いので、帰る場所があることで安心して旅ができる感覚、とても共感します!莉花さんが思う、旅の醍醐味とは?
イギリスのフラワー留学中に出会った、世界各国から集まった情熱あふれる8人の女性たちです。
当時の私は、父が亡くなってわずか10日後に日本を発たなければならず、心が追いつかないままの渡英でした。そんな私を、彼女たちの温かさが大いに励ましてくれました。
金融業でキャリアを確立した後、フローリストとして独立する準備を進める女性。
双子の子どもを育てながら、パワフルに独立を目指す女性。
スイスから、転職の合間にできた時間を学びの旅に充てた女性。
他にも数え切れないほどの出会いがあり、それぞれの人生の選択や情熱に触れることができた、かけがえのない旅でした。
今回の台湾旅で張さんから学べたことも、自分自身の使命を再確認するきっかけにもなりましたし、忘れられない出会いになりました。
イギリスのフラワー留学で出会った女性たち
Q1. 植物採集という珍しいキーワードで旅や仕事をされていますが、どんな旅でしょうか?
植物を通じて学びを深めることを目的とした旅です。
これまでに、イギリスへ短期留学し、本格的にフローリストとしてビジネスを始めるためのスクールに通ったほか、韓国・釜山では韓方(日本でいう漢方)を巡る旅をしました。直近では、台湾茶を学ぶために台湾を訪れています。
台湾の漢方薬局
Q2. 旅先はどうやって決めていますか?
会いたい植物、会いたい人のピンがいくつかクロスした場所に行きます。
Q3. 会いたい植物と人がいる場所、素敵ですね!直近の台湾旅についても教えてください!
今回の旅では、台中の原生林の中で野生の茶の木を視察し、4日間にわたり台湾茶の飲み比べを行いました。
私は日本各地のお茶農園を巡るほどお茶が大好きなのですが、自由が丘に住んでいた頃、近所の台湾茶サロン「茶の助」で張さんという方と出会いました。
張さんは、未開拓の原生林のような場所で、樹齢100年を超えるお茶の木から手作業で茶葉を摘み、お茶を作るという、非常にユニークな方です。日本ではお茶の木は通常、樹齢40年ほどで植え替えられるため、それがどれほど珍しいことかが分かると思います。
これまでにハーブティー、紅茶、野草茶・薬膳茶などさまざまなお茶を学んできましたが、台湾茶にはあまり馴染みがありませんでした。
そこで、本物の台湾茶を学ぶならぜひ張さんから直接学びたいと思い、お声がけしたところ実現しました。
Q4. 大好きなお茶について学ぶ旅、ワクワクしますね!実際に訪れてみた感想はいかがですか?
朝9時から夜中の2時までお茶を飲み続け、まさに心身を鍛える修行のような旅になりました(笑)。
現地に着いてまず驚いたのは、原生林の香りです。
日本の森とはまったく異なり、まるで華やかで複雑な精油がブレンドされたような香りが漂っていました。
お茶の香りには、その土地の空気や自然のエッセンスが染み込んでいます。実際に飲んでみると、口いっぱいに広がる香りと後味の中に原生林の植物を感じ、高揚感を覚えました。その丁寧で奥深い味わいは、他では出会えないものです。
また、現地では野生のシナモンやレモンの花にも出会い、力強さに感動しました。樹齢数百年を超える木もあり、日本で見る整然とした茶畑とはまったく異なる風景が広がっていました。
台湾原生林で野草を食べる張さん
台湾原生林の茶葉
“人生を茶に捧げた張さんと出会って、使命がより明確に”
Q5. お茶の世界も深いですね。そのお茶もいつか飲んでみたいです!台湾旅では、どんな学びがありましたか?
お茶は健康に良いイメージがありますが、一方で「飲む農薬」とも言われることがあります。農薬や化学肥料、農業機械などを使う「慣行農法」で作られた茶も愛飲していますが、誰がどのようにつくったものなのかは知っていきたいと考えています。
ハーブティーなども効果・効能を謳っているものの、内容が曖昧だったり、薬機法違反の表示がされていたり、保管・管理がずさんなことが少なくありません。どこで、どのように育てられたのか、どのように消費者に届いているのが分からないという問題もあります。
これは中国茶や台湾茶でも同様で、今回の旅では、安全で本物のお茶を見極める方法を丁寧に教えていただきました。
人生を茶に捧げた張さんと出会い、私自身も改めて、自分が生まれ育った伊豆の植物に向き合い、美しい人々の暮らしの歴史や、植物民俗学をより深く探究していきたいという思いが、今回の旅を通じて一層強まりました。
台湾の原生林で火を起こして茶を嗜む
“「帰る場所」があるからこそ、旅先の魅力も一層深く感じられる”
Q6. 旅を通して、よりご自身の使命が明確になったんですね!地元の伊豆で活動しようと思った理由を教えてください
多くの人にとって、新型コロナウイルスによるパンデミックは人生を変えたと思います。わたしたち家族にとっても同じでした。
コロナ禍に息が詰まるような東京 自由が丘での暮らしを変えたいと考え、北海道から沖縄まで各地を旅して移住先を探し。この旅で多くの植物友達に出会うことができ、移住について、人生について深く考える時間を持てました。
地元の三嶋大社で、新緑の中で結婚式を迎えた時大きく心が動きました。自分が思い描いた、植物で彩る結婚式ではあまりにも美しい世界が広がっていて、足繁く帰省するように。
植物や伊豆ならではの文化を知るおじいさん、おばあさんがたくさんいて、嬉しそうにたくさん話してくれました。しかし誰もその情報に興味がない。このまま誰にも残されずに消えていくにはあまりにも惜しいことだらけです。
もう間に合わないかもしれない、というギリギリのタイミングです。植物の情報は、インターネット上にはほとんど正確なものが載っていません。AIが引っ張り出す情報のほとんどは不正確なのです。
私にできることは何だろう——そう考えたとき、生まれ育った伊豆の美しい自然、そしてそこに生かされてきた人々の知恵を伝えていくことこそが、私の役割なのかもしれないと思うようになりました。
やってみなければわからない。この手で、この目で確かめなければわからない。それが植物の世界です。先人たちが命を注いで確かめてきた知恵と知識を未来へつなぐために、活動を広げていきたいと考えています。
自分の「帰る場所」があるからこそ、旅に出る喜びがより大きくなり、旅先の魅力も一層深く感じられる気がするんですよね。
伊豆の蓮茶研究開発
Q7. 私自身も旅が多いので、帰る場所があることで安心して旅ができる感覚、とても共感します!莉花さんが思う、旅の醍醐味とは?
イギリスのフラワー留学中に出会った、世界各国から集まった情熱あふれる8人の女性たちです。
当時の私は、父が亡くなってわずか10日後に日本を発たなければならず、心が追いつかないままの渡英でした。そんな私を、彼女たちの温かさが大いに励ましてくれました。
金融業でキャリアを確立した後、フローリストとして独立する準備を進める女性。
双子の子どもを育てながら、パワフルに独立を目指す女性。
スイスから、転職の合間にできた時間を学びの旅に充てた女性。
他にも数え切れないほどの出会いがあり、それぞれの人生の選択や情熱に触れることができた、かけがえのない旅でした。
今回の台湾旅で張さんから学べたことも、自分自身の使命を再確認するきっかけにもなりましたし、忘れられない出会いになりました。
イギリスのフラワー留学で出会った女性たち
Q8. 素敵な方達に出会えたんですね!旅先での貴重な経験は、お仕事にも活かされると思いますが、お仕事ではどのように植物と関わっていますか?
簡単に言うと、私は植物を“編集”し、プロデュースする仕事をしています。植物を通して、殺伐とした資本主義社会の中に、ほんの少しでも優しさや美しさを取り戻せるよう、私は研究、開発、そしてクリエイティブディレクションを行っています。
「植物のある暮らし」と聞くと、花束や鉢植え、あるいは自然の中での暮らしを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、それだけが植物ではありません。「彼ら」は、私たちの身の回りに溢れています。
例えば、心を和らげる一杯のお茶も、愛する人への手紙も、お気に入りのダイニングテーブルも、街を災害から守る自然林も。実は、衣・食・住、つまり“生きる”ことのすべてに植物は関わっているのです。
最近携わっている仕事には、日本茶を軸としたティーペアリングの世界を広める取り組みや、植物をテーマに新しいクリニックをブランディングするプロジェクト、伊豆の植物を軸にした、お寺に作る薬草園のプロジェクトなどがあります。
伊豆の国市にあるギャラリーでクリエイティブディレクション兼モデルの仕事
“瞬間的に流行るものや移り変わるものでないからこそ、本質的に良いもので、大切にされるものを作りたい”
Q9. 植物って私たちの想像以上に身近な存在なのだと気づかされます。今までのお仕事で印象に残っているプロジェクトを教えてください。
これまでに携わったプロジェクトの中でも特に印象深いのが、創業50年を迎え、8万人以上の赤ちゃんが誕生している愛和川越ウエストクリニックのブランディングプロジェクトです。
実は、このクリニックの院長は、大学時代の教授であり恩師でもあります。
卒業後もFacebookでつながっていたのですが、ある日突然、その教授から連絡がありました。
「新しいクリニックを作ることになったんだけど、病院ってどうしても無機質で冷たい空間が多いでしょう? でも、ここは多くの女性が訪れる場所だからこそ、植物の力で温かみのある空間にしたい。」そんな相談を受け、プロジェクトが始まりました。
ロゴの制作から、空間に流れる音楽、心を落ち着かせるアロマ、草木染めを使ったユニフォームに至るまで、五感で感じるすべてを植物を通してディレクションしました。
一筋縄ではいかないこともありましたが、各分野のスペシャリストと共に試行錯誤しながら進めました。
瞬間的に流行るものや移り変わるものでないからこそ、本質的に良いもので、大切にされるものを作ることが大切なんですよね。
これまでの旅や学びから得た知識と経験を最大限に活かす、本当に良いプロジェクトに携わることができたと感じています。
愛和川越ウエストクリニックのブランディングプロジェクト
“植物がある暮らしは、私にとって「幸せ」そのもの”
Q10. 莉花さんの誠実な人柄と植物への愛が伝わってきます!植物がある暮らしとは、莉花さんにとってどんなことですか?
植物と共にある暮らしは、私にとって「幸せ」そのものです。心の深いところから、幸福を感じられる――そんな日々を与えてくれる存在です。
家に帰ってきて、ふと目に入る部屋の緑。たったそれだけで、心がふわっとほぐれ、「ああ、帰ってきた」と思える。
朝の柔らかな光が差し込む部屋で飲む、静かな一杯のお茶。
春先、娘と一緒に植えた庭の小さな芽が、ある日ふと顔を出している瞬間。
そんな、何気ない日々のひとこまひとこまが、私にとっては幸せです
そして、ふと旅先で過ごした日々を思い出すたび、「やっぱり帰る場所があるって、いいな」と、心の底から感じます。
自分の好きな人たち、そして愛おしい植物たちに囲まれて暮らす毎日は、かけがえのない、私だけの幸せのかたちです。
愛和川越ウエストクリニックのブランディングプロジェクト
Q11. 旅を通して見つけた、莉花さん幸せのかたち。心がじんわり暖かくなりました。そんな幸せをかたちにするために、意識していることはありますか?
直感を大切にすること、礼儀正しくあること、家族と友人との時間を大切にすること、いつも最善を尽くすこと、睡眠をたくさん取ることです。
自分の選択が人生をつくると思っているので、基本的に、自分の選んできたことに対して文句は言わないようにして、誰のためでもない自分の人生を、感性にしたがって生きるようにしています。
Q12. これからやってみたいことはありますか?
生まれ育った伊豆の美しい自然、そしてその地で何世代にもわたって受け継がれてきた人々の知恵や営みを、もっと多くの人に伝えていくことです。
現在着手しているのは、ミシマサイコやアマギアマチャなど、古くからこの地に伝わる薬草を集めた薬草園の設立です。これらの薬草は単なる植物ではなく、かつて人々の命を守り、生活の一部として深く根付いてきた大切な存在です。
具体的には、ミシマサイコやアマギアマチャといった、この地に古くから息づく薬草を集めた薬草園の設立を進めています。
これらの薬草は単なる植物ではなく、かつて人々の命を守り、生活の一部として深く根付いてきた大切な存在です。その大切な地域の伝統と知恵を未来に繋げる場所を作りたいと考えています。
世界中の人々といつでも繋がれるこの時代
「好きなときに好きな場所で好きな人と過ごす」
そんな既存の枠に囚われない新しいライフスタイルを
自分で作り上げていく。
この連載はそんな輝く「わたしたち」にフォーカスし
インタビューを通して見えてくる
人となり、ライフスタイル、
そしてわたしたちが旅する理由をひも解きます。
ワクワクする非日常への一歩を踏み出せるようになりたい
「わたし」へ向けて。
私が旅する理由
第16回目は、『会いたい植物、会いたい人のピンがクロスした場所に行く』旅好きの植物採集家、古長谷莉花さんにインタビュー。母の影響で幼少期から植物に囲まれて育った莉花さん。大好きな植物を通して見る世界、旅先での出会いを通して感じた自分の使命とは?
Profile
古長谷 莉花
職業: 植物採集家
趣味: 植物に触れること、茶を飲むこと
好きな食べ物: お茶と米粉クッキー
座右の銘: 世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。
Q1. 植物採集という珍しいキーワードで旅や仕事をされていますが、どんな旅でしょうか?
植物を通じて学びを深めることを目的とした旅です。
これまでに、イギリスへ短期留学し、本格的にフローリストとしてビジネスを始めるためのスクールに通ったほか、韓国・釜山では韓方(日本でいう漢方)を巡る旅をしました。直近では、台湾茶を学ぶために台湾を訪れています。
台湾の漢方薬局
Q2. 旅先はどうやって決めていますか?
会いたい植物、会いたい人のピンがいくつかクロスした場所に行きます。
Q3. 会いたい植物と人がいる場所、素敵ですね!直近の台湾旅についても教えてください!
今回の旅では、台中の原生林の中で野生の茶の木を視察し、4日間にわたり台湾茶の飲み比べを行いました。
私は日本各地のお茶農園を巡るほどお茶が大好きなのですが、自由が丘に住んでいた頃、近所の台湾茶サロン「茶の助」で張さんという方と出会いました。
張さんは、未開拓の原生林のような場所で、樹齢100年を超えるお茶の木から手作業で茶葉を摘み、お茶を作るという、非常にユニークな方です。日本ではお茶の木は通常、樹齢40年ほどで植え替えられるため、それがどれほど珍しいことかが分かると思います。
これまでにハーブティー、紅茶、野草茶・薬膳茶などさまざまなお茶を学んできましたが、台湾茶にはあまり馴染みがありませんでした。
そこで、本物の台湾茶を学ぶならぜひ張さんから直接学びたいと思い、お声がけしたところ実現しました。
Q4. 大好きなお茶について学ぶ旅、ワクワクしますね!実際に訪れてみた感想はいかがですか?
朝9時から夜中の2時までお茶を飲み続け、まさに心身を鍛える修行のような旅になりました(笑)。
現地に着いてまず驚いたのは、原生林の香りです。
日本の森とはまったく異なり、まるで華やかで複雑な精油がブレンドされたような香りが漂っていました。
お茶の香りには、その土地の空気や自然のエッセンスが染み込んでいます。実際に飲んでみると、口いっぱいに広がる香りと後味の中に原生林の植物を感じ、高揚感を覚えました。その丁寧で奥深い味わいは、他では出会えないものです。
また、現地では野生のシナモンやレモンの花にも出会い、力強さに感動しました。樹齢数百年を超える木もあり、日本で見る整然とした茶畑とはまったく異なる風景が広がっていました。
台湾原生林で野草を食べる張さん
台湾原生林の茶葉
“人生を茶に捧げた張さんと出会って、使命がより明確に”
Q5. お茶の世界も深いですね。そのお茶もいつか飲んでみたいです!台湾旅では、どんな学びがありましたか?
お茶は健康に良いイメージがありますが、一方で「飲む農薬」とも言われることがあります。農薬や化学肥料、農業機械などを使う「慣行農法」で作られた茶も愛飲していますが、誰がどのようにつくったものなのかは知っていきたいと考えています。
ハーブティーなども効果・効能を謳っているものの、内容が曖昧だったり、薬機法違反の表示がされていたり、保管・管理がずさんなことが少なくありません。どこで、どのように育てられたのか、どのように消費者に届いているのが分からないという問題もあります。
これは中国茶や台湾茶でも同様で、今回の旅では、安全で本物のお茶を見極める方法を丁寧に教えていただきました。
人生を茶に捧げた張さんと出会い、私自身も改めて、自分が生まれ育った伊豆の植物に向き合い、美しい人々の暮らしの歴史や、植物民俗学をより深く探究していきたいという思いが、今回の旅を通じて一層強まりました。
台湾の原生林で火を起こして茶を嗜む
“「帰る場所」があるからこそ、旅先の魅力も一層深く感じられる”
Q6. 旅を通して、よりご自身の使命が明確になったんですね!地元の伊豆で活動しようと思った理由を教えてください
多くの人にとって、新型コロナウイルスによるパンデミックは人生を変えたと思います。わたしたち家族にとっても同じでした。
コロナ禍に息が詰まるような東京 自由が丘での暮らしを変えたいと考え、北海道から沖縄まで各地を旅して移住先を探し。この旅で多くの植物友達に出会うことができ、移住について、人生について深く考える時間を持てました。
地元の三嶋大社で、新緑の中で結婚式を迎えた時大きく心が動きました。自分が思い描いた、植物で彩る結婚式ではあまりにも美しい世界が広がっていて、足繁く帰省するように。
植物や伊豆ならではの文化を知るおじいさん、おばあさんがたくさんいて、嬉しそうにたくさん話してくれました。しかし誰もその情報に興味がない。このまま誰にも残されずに消えていくにはあまりにも惜しいことだらけです。
もう間に合わないかもしれない、というギリギリのタイミングです。植物の情報は、インターネット上にはほとんど正確なものが載っていません。AIが引っ張り出す情報のほとんどは不正確なのです。
私にできることは何だろう——そう考えたとき、生まれ育った伊豆の美しい自然、そしてそこに生かされてきた人々の知恵を伝えていくことこそが、私の役割なのかもしれないと思うようになりました。
やってみなければわからない。この手で、この目で確かめなければわからない。それが植物の世界です。先人たちが命を注いで確かめてきた知恵と知識を未来へつなぐために、活動を広げていきたいと考えています。
自分の「帰る場所」があるからこそ、旅に出る喜びがより大きくなり、旅先の魅力も一層深く感じられる気がするんですよね。
伊豆の蓮茶研究開発
Q7. 私自身も旅が多いので、帰る場所があることで安心して旅ができる感覚、とても共感します!莉花さんが思う、旅の醍醐味とは?
イギリスのフラワー留学中に出会った、世界各国から集まった情熱あふれる8人の女性たちです。
当時の私は、父が亡くなってわずか10日後に日本を発たなければならず、心が追いつかないままの渡英でした。そんな私を、彼女たちの温かさが大いに励ましてくれました。
金融業でキャリアを確立した後、フローリストとして独立する準備を進める女性。
双子の子どもを育てながら、パワフルに独立を目指す女性。
スイスから、転職の合間にできた時間を学びの旅に充てた女性。
他にも数え切れないほどの出会いがあり、それぞれの人生の選択や情熱に触れることができた、かけがえのない旅でした。
今回の台湾旅で張さんから学べたことも、自分自身の使命を再確認するきっかけにもなりましたし、忘れられない出会いになりました。
イギリスのフラワー留学で出会った女性たち
Q8. 素敵な方達に出会えたんですね!旅先での貴重な経験は、お仕事にも活かされると思いますが、お仕事ではどのように植物と関わっていますか?
簡単に言うと、私は植物を“編集”し、プロデュースする仕事をしています。植物を通して、殺伐とした資本主義社会の中に、ほんの少しでも優しさや美しさを取り戻せるよう、私は研究、開発、そしてクリエイティブディレクションを行っています。
「植物のある暮らし」と聞くと、花束や鉢植え、あるいは自然の中での暮らしを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、それだけが植物ではありません。「彼ら」は、私たちの身の回りに溢れています。
例えば、心を和らげる一杯のお茶も、愛する人への手紙も、お気に入りのダイニングテーブルも、街を災害から守る自然林も。実は、衣・食・住、つまり“生きる”ことのすべてに植物は関わっているのです。
最近携わっている仕事には、日本茶を軸としたティーペアリングの世界を広める取り組みや、植物をテーマに新しいクリニックをブランディングするプロジェクト、伊豆の植物を軸にした、お寺に作る薬草園のプロジェクトなどがあります。
伊豆の国市にあるギャラリーでクリエイティブディレクション兼モデルの仕事
“瞬間的に流行るものや
移り変わるものでないからこそ、
本質的に良いもので、大切にされるものを作りたい”
Q9. 植物って私たちの想像以上に身近な存在なのだと気づかされます。今までのお仕事で印象に残っているプロジェクトを教えてください。
これまでに携わったプロジェクトの中でも特に印象深いのが、創業50年を迎え、8万人以上の赤ちゃんが誕生している愛和川越ウエストクリニックのブランディングプロジェクトです。
実は、このクリニックの院長は、大学時代の教授であり恩師でもあります。
卒業後もFacebookでつながっていたのですが、ある日突然、その教授から連絡がありました。
「新しいクリニックを作ることになったんだけど、病院ってどうしても無機質で冷たい空間が多いでしょう? でも、ここは多くの女性が訪れる場所だからこそ、植物の力で温かみのある空間にしたい。」そんな相談を受け、プロジェクトが始まりました。
ロゴの制作から、空間に流れる音楽、心を落ち着かせるアロマ、草木染めを使ったユニフォームに至るまで、五感で感じるすべてを植物を通してディレクションしました。
一筋縄ではいかないこともありましたが、各分野のスペシャリストと共に試行錯誤しながら進めました。
瞬間的に流行るものや移り変わるものでないからこそ、本質的に良いもので、大切にされるものを作ることが大切なんですよね。
これまでの旅や学びから得た知識と経験を最大限に活かす、本当に良いプロジェクトに携わることができたと感じています。
愛和川越ウエストクリニックのブランディングプロジェクト
“植物がある暮らしは、私にとって「幸せ」そのもの”
Q10. 莉花さんの誠実な人柄と植物への愛が伝わってきます!植物がある暮らしとは、莉花さんにとってどんなことですか?
植物と共にある暮らしは、私にとって「幸せ」そのものです。心の深いところから、幸福を感じられる――そんな日々を与えてくれる存在です。
家に帰ってきて、ふと目に入る部屋の緑。たったそれだけで、心がふわっとほぐれ、「ああ、帰ってきた」と思える。
朝の柔らかな光が差し込む部屋で飲む、静かな一杯のお茶。
春先、娘と一緒に植えた庭の小さな芽が、ある日ふと顔を出している瞬間。
そんな、何気ない日々のひとこまひとこまが、私にとっては幸せです
そして、ふと旅先で過ごした日々を思い出すたび、「やっぱり帰る場所があるって、いいな」と、心の底から感じます。
自分の好きな人たち、そして愛おしい植物たちに囲まれて暮らす毎日は、かけがえのない、私だけの幸せのかたちです。
愛和川越ウエストクリニックのブランディングプロジェクト
Q11. 旅を通して見つけた、莉花さん幸せのかたち。心がじんわり暖かくなりました。そんな幸せをかたちにするために、意識していることはありますか?
直感を大切にすること、礼儀正しくあること、家族と友人との時間を大切にすること、いつも最善を尽くすこと、睡眠をたくさん取ることです。
自分の選択が人生をつくると思っているので、基本的に、自分の選んできたことに対して文句は言わないようにして、誰のためでもない自分の人生を、感性にしたがって生きるようにしています。
Q12. これからやってみたいことはありますか?
生まれ育った伊豆の美しい自然、そしてその地で何世代にもわたって受け継がれてきた人々の知恵や営みを、もっと多くの人に伝えていくことです。
現在着手しているのは、ミシマサイコやアマギアマチャなど、古くからこの地に伝わる薬草を集めた薬草園の設立です。これらの薬草は単なる植物ではなく、かつて人々の命を守り、生活の一部として深く根付いてきた大切な存在です。
具体的には、ミシマサイコやアマギアマチャといった、この地に古くから息づく薬草を集めた薬草園の設立を進めています。
これらの薬草は単なる植物ではなく、かつて人々の命を守り、生活の一部として深く根付いてきた大切な存在です。その大切な地域の伝統と知恵を未来に繋げる場所を作りたいと考えています。
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